火葬場の盗人

2018年06月01日

『おそ松さん』二次創作小説 一カラ 2016年12月頃

カラ松くんの葬式に出席する一松くん



 死体は冷たいというから、もっと青白い顔をしているものだと思っていた。棺桶の中で花に埋もれ横たわる今の兄のほうが、よっぽど生前よりも綺麗だと、俺には思えたのだ。つるりとした陶器のように白く、ひんやりした頬は死化粧が施され、薄紅色が差している。こうして見ると案外、松野カラ松は整った顔をしていたのかもしれないな、と思った。自分と同じ顔と言っても、それなりに差異があるように見えるのは贔屓目だろうか。長い睫毛に縁取られた両目には開く気配が無かった。両手を腹の上で組まされた姿が、まるでお姫様みたいでくらくらする。その手を見て、俺はヴィーナス像が何故芸術品として賞賛されるのかを理解したのだった。失われた箇所は有り得ない願望を優しく受け入れてくれるのだ。
 この世界に王子様なんていないのだし、カラ松の人生は不幸な交通事故という形で完成されてしまったので、俺にはどうしようもなかった。火葬場で呆気なく、跡形もなく、松野カラ松は消え去った。
 仕方が無いので、俺はこっそり貯めていたアルバイト代で、安物の指輪を二つ買った。所謂ペアリングだ。小さな青色のサファイアが、俺の左薬指で輝いている。
 対になるアメジストリングを、あの日盗んだ薬指に通しては、在りし日の事を、あったかもしれない未来を考えている。

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