風見夢小説
『名探偵コナン』二次創作 モブ女目線夢小説 5月23日
ゼロの執行人を観て、
「あぶない……安室の女になるところだった」
と息をついたのもつかの間、風見の女にされました。
ずかずか、という擬音がぴったりくるような歩き方をする人だった。もうすっかり夏だというのに、かっちりとスーツを着込んだ彼は、いつも周囲を威嚇するように歩いている。思わず威圧感に気圧されそうになって、しかし私は両手を握りしめ、口を開く。
「あの」
私が後ろ姿に声をかけると、彼はすぐに、「なんでしょう」と振りかえった。改めて向き合うと、彼は背が高い。愛想の無い、朴訥とした表情を浮かべている。きっと彼は笑顔を浮かべているつもりなのだろうけれど、眼鏡の奥の三白眼が苛立ったように細められたのを、私は見逃さなかった。彼は、時間の無駄を嫌う男だった。
「あの、先日はありがとうございました」
先日、という言葉に、彼は不思議そうにしている。私のことを、上から下までしげしげと眺め、それから曖昧に、「ああ......」と浅く頷いた。私の腕には、まだ包帯が残っている。
一週間ほど前に、無差別殺傷事件に巻き込まれた。休日の賑わいと、ウインドウショッピングを楽しみながら、大通りを歩いていた時のことだった。
その時に、たまたま私服捜査をしていたのだという、この警察官に救われた。腕を切られて、あまりの恐怖に動けなくなった私を抱えて、彼は走った。
駆けつけていた救急隊に私を預けると、彼は「犯人を追跡する」と言って、また慌ただしく駆けていってしまったのだ。私は、お礼さえ言えなかった。
「風見さんは命の恩人です」
彼は名前も言わずに去って行ったから、私は必死になって彼の名を調べた。そうしてやっと、今この場所で、彼と向き合っている。
私の言葉に、彼は表情の一つも変えず、一言、
「仕事ですから」
と答えた。
「はやく怪我が治ると良いですね。火傷が痕にならないと良いのですが」
では、と会釈をすると、彼は一方的に話を切り上げて、またずかずかと歩いて行ってしまった。本当に、愛想が無い。それに不器用だ。女性の扱い方に慣れていない。私の服はもちろん、気合の入ったメイクだって、まるで見ていないのだろう。
私は聞き損なった連絡先と、言い損なった言葉のせいで、なんだか笑えてきてしまった。
私の怪我は、浅い切り傷なのに。
――それ、別の人です。なんて、彼にとって私は、守るべき日本の一部に過ぎないのだろうけれど。