風見夢小説

2018年06月04日

『名探偵コナン』二次創作 モブ女目線夢小説 5月23日

ゼロの執行人を観て、

「あぶない……安室の女になるところだった」

と息をついたのもつかの間、風見の女にされました。


 ずかずか、という擬音がぴったりくるような歩き方をする人だった。もうすっかり夏だというのに、かっちりとスーツを着込んだ彼は、いつも周囲を威嚇するように歩いている。思わず威圧感に気圧されそうになって、しかし私は両手を握りしめ、口を開く。

「あの」

 私が後ろ姿に声をかけると、彼はすぐに、「なんでしょう」と振りかえった。改めて向き合うと、彼は背が高い。愛想の無い、朴訥とした表情を浮かべている。きっと彼は笑顔を浮かべているつもりなのだろうけれど、眼鏡の奥の三白眼が苛立ったように細められたのを、私は見逃さなかった。彼は、時間の無駄を嫌う男だった。

「あの、先日はありがとうございました」

 先日、という言葉に、彼は不思議そうにしている。私のことを、上から下までしげしげと眺め、それから曖昧に、「ああ......」と浅く頷いた。私の腕には、まだ包帯が残っている。

 一週間ほど前に、無差別殺傷事件に巻き込まれた。休日の賑わいと、ウインドウショッピングを楽しみながら、大通りを歩いていた時のことだった。

 その時に、たまたま私服捜査をしていたのだという、この警察官に救われた。腕を切られて、あまりの恐怖に動けなくなった私を抱えて、彼は走った。

 駆けつけていた救急隊に私を預けると、彼は「犯人を追跡する」と言って、また慌ただしく駆けていってしまったのだ。私は、お礼さえ言えなかった。

「風見さんは命の恩人です」

 彼は名前も言わずに去って行ったから、私は必死になって彼の名を調べた。そうしてやっと、今この場所で、彼と向き合っている。

 私の言葉に、彼は表情の一つも変えず、一言、

「仕事ですから」

 と答えた。

「はやく怪我が治ると良いですね。火傷が痕にならないと良いのですが」

 では、と会釈をすると、彼は一方的に話を切り上げて、またずかずかと歩いて行ってしまった。本当に、愛想が無い。それに不器用だ。女性の扱い方に慣れていない。私の服はもちろん、気合の入ったメイクだって、まるで見ていないのだろう。

 私は聞き損なった連絡先と、言い損なった言葉のせいで、なんだか笑えてきてしまった。

 私の怪我は、浅い切り傷なのに。

 ――それ、別の人です。なんて、彼にとって私は、守るべき日本の一部に過ぎないのだろうけれど。

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