二次創作

基本腐なので注意してください

かぐや姫の横暴

2018年06月01日

唯一失敗したなと思ったのは、六月の海は案外寒い、ということだった。海水を吸ったパーカーが重く腕に張り付いて鬱陶しい。日が暮れた今、体温は奪われるばかりで、くしゅんと小さくくしゃみをする。御影密はもともと猫背気味の背中をさらに丸めて縮こまった。
「待っていてくれたまえ密くん、もうすぐ火がつくよ」
先程から拾った使い捨てライターで、これまた拾った流木に火をつけようと奮闘している有栖川誉に密がちらりと視線を寄越すと、予想はついていたけれど木に火がつくどころかライターから火が出る気配すらないので、思わず溜息が漏れた。
「おかしいな......下まで押し込むことができないから、壊れているのかもしれない」
「ちょっと貸して」
「む、密くんは直せるのかね?」
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恒星たちの夜

2018年06月01日

『イナズマイレブン』二次創作小説 カップリング要素無し ブレイク組 2018年5月15日

対価に呼吸を

2018年06月01日

「あれ、密くん、ワタシの万年筆を知らないかい」
机の周りをきょろきょろ見回して、誉は首を捻っている。その様子を見て、密は呆れたように溜息をついた。もう、何度目のやり取りだろう。
「それなら、さっき出かけたとき、棚の上に置いてたでしょ」
「──ああ、そうだったね。ありがとう密くん」
助かったよ、と言いながら、誉は棚から万年筆を手に取った。つい数分前、他でもない自分がそこに置いたというのに。最近のアリスは、なんだか上の空だ。元来物を大切にする人であるのに、失くし物が増えた。どうやら、詩の制作が行き詰まっているらしい。
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可燃性の街

2018年06月01日

また来た。
密はうんざり、といった表情を見せた。遠くから鼻歌が聴こえてくる。十中八九、あの男に違いなかった。
捕まったらきっと面倒だ。前だって、散々よく分からない詩を披露された。人形のような顔をしているくせに、口だけはペラペラとよく回る、妙な男なのだ。
さっさと退散しよう。そう思って、密はゴミの山から立ち上がった。今日の収穫はまだなかったけれど、仕方ない。あの男が去ってから、金になりそうな物を探せば良いのだ。幸いにして時間はいくらでもある。
ところが、ガラガラ! という音と、ぎにゃあ! という素っ頓狂な叫び声がしたので、密はビクリと動きを止めた。カラカラ、と空き缶が転がっていく音が響いた。それから、密ははぁ、と溜息をつく。
「ほんとさぁ」
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「おや、密くん。今日も来てくれたんだね」
顔を綻ばせ、誉が水面から頭を出した。そうすると水が揺れて、透明なアクリル板に囲まれた小さな海に波が生まれる。水槽の上に作られた金属製の足場から、密は誉を見て、やがて座り込んだ。餌を与える為である。
「ん」
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不変の祝福

2018年06月01日

密の予想通り、お土産の天体キャンディーを受け取った誉は「詩興が湧いた!」と叫んだのだった。耳を抑えながら、密は玄関で早速お土産を渡してしまったことを後悔する。もう少し後にすれば良かったかもしれない。
けれど、やはり早々にお土産を手渡す運命だったのだろう。どういうわけだか、誉は仁王立ちになって玄関で待ち構えていたのだ。ドアを開けてすぐに、仁王立ちをしている高身長の成人男性と鉢合わせた時の気持ちを考えてみてほしい。思わず密はびくりと肩を揺らしてしまった。恐らく監督も同じだろう。
そんな威圧感たっぷりの誉の表情はきらきら輝くようなものだった。おかえり! とにこにこしながら挨拶をするものだから、密と監督は思わず顔を見合わせた。これは、何かあるだろう。
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トロンプ・ルイユ

2018年06月01日

「しにたい」
聞き間違いかと思った。麗らかな日差しと、美しい自然とが見事に調和した景色には、まるで似合わない言葉だったからだ。丁度ワタシたちが目指していた湖に辿り着いた時のことであった。どうか聞き間違いであってほしいと思いながら、ワタシは芝生に座った身体をそのままに、首だけを動かして、隣で膝を抱えている密くんを見た。旅に出てからもう随分と経つけれど、密くんがこんな風に弱音を吐くのは初めてのことだった。
「なにか、あったのかい?」
ワタシは努めて、普段と変わらぬ調子で尋ねた。
「......ううん、別に」
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ボッ、と音を立てて、御影密の背後で枯れ草が発火した。小さかった種火は徐々に大きくなり、やがて燃えるだけの材料さえもなくなると、黒い煙を出して消える。からからに乾燥した空気に、照りつける太陽が容赦なく降り注ぐから、燃えやすいものはみんなこうなるのだ。ゆらゆらと遠くで陽炎が揺れる。作り物の汗が頬を伝うのが鬱陶しかった。長い前髪が顔に張り付く。
密は、こんな所まで人に似せなくても良かったんじゃないか、と思っていた。温暖化を予想した科学者によって、暑さにはめっぽう強く作られているのだ。だったら熱を下げるための生体反応まで付属する必要があったのか、密には甚だ疑問である。元にこんな環境でもケロリとしていられるのだ。
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