かぐや姫の横暴
唯一失敗したなと思ったのは、六月の海は案外寒い、ということだった。海水を吸ったパーカーが重く腕に張り付いて鬱陶しい。日が暮れた今、体温は奪われるばかりで、くしゅんと小さくくしゃみをする。御影密はもともと猫背気味の背中をさらに丸めて縮こまった。
「待っていてくれたまえ密くん、もうすぐ火がつくよ」
先程から拾った使い捨てライターで、これまた拾った流木に火をつけようと奮闘している有栖川誉に密がちらりと視線を寄越すと、予想はついていたけれど木に火がつくどころかライターから火が出る気配すらないので、思わず溜息が漏れた。
「おかしいな......下まで押し込むことができないから、壊れているのかもしれない」
「ちょっと貸して」
「む、密くんは直せるのかね?」
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